野辺の送り

報恩講のお参りに行った時のことです。

その家の奥さんは今から十年前に脳卒中で倒れ、

右半身不随と言語障害になってしまいました。

最初の三年間はご主人に思いが全く通じず、

惨憺(さんたん)たる状況だったようです。

ご主人もまた同じ思いだったでしょう。

しかし十年たった今、

壁を乗り越え仲むつまじい関係になっていました。

「家内の言うことは大抵分かる」と言われたそばで

微笑む奥さんの顔がとても印象的でした。

確かに脳卒中は悲しい出来事に違いありませんが、

そのことがあったからこそ他の夫婦にはない

深いつながりが生まれたのではないでしょうか。

ー野辺の送りー花水木
能邨勇樹